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僕が本当に面白いと思うこと

社会学とお笑いと日常生活

「笑けずり」感想①抜群のリアリティ ~過酷なシステム、個性豊かで愛らしい芸人たち~

お笑い

【笑けずり 概要】

NHK BSプレミアムで8~9月期、無名漫才師9組が共同生活をしながら互いに漫才で競い合い、優勝者を決めるという「笑けずり」なる番組が放送されていました。編集の雰囲気的には、芸人同棲とかテラスハウス、昔の番組でいえばガチンコ!!!に近いような、ドキュメント風味。

芸人の選出は、THE MANZAIキングオブコントといった賞レースの二回戦に出るレベルの芸人、といったところ。賞レース予選をチェックし、たまに劇場に行く程度の僕が知ってるか知らないか、やっぱ知らない、みたいなラインの芸人が選ばれています。

選ばれた9組はこちら。(順位の並びです)

・ザ・パーフェクト
・Aマッソ
・ぺこぱ
オレンジサンセット
・こころ
ダイキリ
アルドルフ
天然ピエロ
・いらんいらん

これらの芸人に対して、中川家笑い飯、千鳥、バイきんぐ、サンドウィッチマンら一流芸人講師たちがそれぞれの得意分野についての講義、指導、ダメ出しをしていき、それを踏まえたネタ見せが毎回行われ、最下位の芸人が脱落していく、というシステムです。

ちなみに講義テーマは以下のような内容。
中川家「つかみ」
笑い飯「他とかぶらない独創的な漫才」
千鳥「つっこみを活かした漫才」
バイきんぐ「切り口の新しいコント漫才
サンドウィッチマン「賞レースで勝てる漫才」

そして毎回、講師となる芸人に加えて、インパルス板倉、ハライチ岩井、NON STYLE石田などの全国区の芸人、ならびに倉本美津留などの構成作家が審査員、コメンテーターとして訪れるのです。なんとまあ、若手芸人にとっては夢のような番組!!!

これがまた、凄く良い番組でした。近年のテレビ番組の中で一番おもしろかったです。ということで、3つほどの記事にわたって感想を書きたいと思います。

 

***

 

さて、まずは第一回の記事として、この番組におけるリアリティについて記しておきます。この、企画書だけでも垂涎ものの番組、結果的に大成功といえる盛り上がり、反響のもとにお笑い、シーズン2の作成がそれとなく示唆される運びとなりました。この番組を成功に導いたのは、なんといってもそのリアリティです。

笑けずりが持っていた重厚なリアリティは、番組のシステム面、ハード面と、そこに参加する芸人たちの個性、ソフト面の両方に由来するものでした。

【① 芸人が毎回けずられる、という過酷なシステム】

この手のサバイバル番組においては、「生き残ることがプラスである」「消えてしまうことがマイナスである」ということに、どれだけ強い意味があるか、それが問題です。

例えばドランクドラゴン鈴木が毎回炎上する「逃走中」では、生き残ることのプラス性は賞金額によって担保されています。ただ、その賞金額は、逃走中に登場するような人気芸能人にとっては、嬉しいお小遣い、といった程度の金額です。(ですから、あの番組はシリアスになり過ぎず娯楽として成立している、ともいえます。余計に鈴木が炎上する意味がわからない。)

笑けずりの場合は、勝ち残ることのプラス性は二重に担保されています。一つ目に、テレビに出続けることができる、ということ。二つ目に、芸人として面白いのだと認められることになる、ということ。

まず一つ目。出場芸人が全員売れてない芸人、他でテレビに出られない芸人であるために、「けずられる」ことの意味は計り知れなく大きいのです。初回にけずられた「いらんいらん」があまりにもあっさりとフェイドアウトしたことは、この番組における「けずられる」ことの意味の強さを印象付けることに成功していました。

そして二つ目。面白さの担保は、参加芸人たちのモチベーションともなっていたでしょう。特に最終決戦に残った3組の芸人は、それぞれに挑戦的な姿勢でこの番組に臨んでいたように思います。どんなにアドバイスを受けても自分たちのフォーマットを信じ続けたザ・パーフェクト、個性的なネタやワードを作り続けたAマッソ、キャラ漫才でありつつナンセンスな要素を散りばめたぺこぱ、三者三様に挑戦がありました。その挑戦の成功が「勝ち残り」に直結していたのが笑けずりのシステムでした。

 

【②面白くても隙のある、個性豊かで愛らしい芸人たち】

また、笑けずりにおいては、ゆるやかに芸人ごとの完成度の差、面白さの序列は見えていましたが、常に上位であったコンビはザ・パーフェクトくらいで、そのザ・パーフェクト含め、面白さに「隙」があり、ハラハラした緊張感がありました。

合宿中のネタ見せで最もウケていたAマッソが、一番隙だらけだったかもわかりません。攻め過ぎたとがったネタゆえにスベるかもしれない、次の瞬間に笑いが持続しないかもしれない、というリアルなハラハラ感は、どんなに面白くても無名芸人であることのリアルを、ことさら強く浮かび上がらせていました。

あるいは、ぺこぱ松陰寺のキャラがブレブレになるところ、こころの不良二人が不安そうにするところなどは、視聴者が物凄く思い入れをもって見たシーンだったのではないでしょうか。

さらに、笑けずりに象徴的だったのは、講師となる芸人へのリスペクトです。アナウンサーにタメ語で反応したり、ネタ作りに悩むとイスを抱えて奇妙なポーズを取ったりしていたAマッソ加納が、笑い飯に褒められるととても嬉しそうにするところなどは、間違いなく名シーンの一つです。また、千鳥に憧れているというザ・パーフェクトの妹尾が、大悟とノブに絶賛され目を潤ませるところなどは、視聴者も大きく心を動かされたのではないでしょうか。

こうした芸人たちの「可愛げ」ゆえに、視聴者は昨今のアイドルを見守るような気持ちで、一緒に育てよう、というような思いで番組を見ていたのではないでしょうか。講師陣の指導の的確さも相まって、お笑い養成所の一幕を見ているような気分になれる番組でした。もしかしたら、お笑いに関する情報番組としての意味合いもあったかもしれません。

 

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こうした理由から、笑けずりは非常にリアルな、そして豊かな番組となっていました。芸人同士の喧嘩や衝突、色恋沙汰など、明らかに演出過多に編集された箇所もありましたが、この手の番組でそういった部分を取り上げたあーだこーだ言うのはナンセンス。総じてエンターテインメントとして成立しつつ、「ガチだな」と思わせるリアリティ、説得力に富む番組。それが「笑けずり」なのです。

Taiki Obonai 2014-