僕が本当に面白いと思うこと

社会学専攻の京大院生の諸々

漫才を類型化する④「キャラ設定型漫才」

漫才というのはマイクの前で行う話芸です。そのうち、例えば店員と客、先輩と後輩といったような「役」に入って行うものをコント漫才、役に入らないまま、本人として行う漫才をしゃべくり漫才というように分類します。

しゃべくり漫才は「役」に入らない漫才ですが、「役」に入らずとも「キャラ設定」が存在することがあります。平場(ひらば・漫才やコントなどのネタ以外の普通の場)のキャラクターとは異なる、「キャラ設定」を導入する手法は、M-1グランプリ2005年のチュートリアル以降広がりました。

「キャラ設定」というのは、例えば、「あるキーワードに強く反応する」「知識や語彙が偏っている」などといったものです。この手の漫才は、【ネタ中のやり取りを一つの軸によって整理できるため、散漫になりにくい】【キャラ設定が面白ければ、ネタ全体に爆発力が出る】といった長所を持っています。

なお、ここでは「オードリー春日」「NON STYLE井上」のような、漫才の中でキャラクターを活かしたやり取りはあるが、平場とキャラクターに違いがなく、もともとそういう芸風の漫才師については除外して考えます。あくまでもネタの台本、設定の中に仕込まれたキャラクターが、「キャラ設定型漫才」に分類される、という定義でいきましょう。

では、いくつか、実例を見ながら
①導入はどのようになっているか
②ボケはどのようなものか
③ツッコミはどのようなものか


以上三点について、「キャラ」との関連において整理していきます。

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【”知識過剰”なボケからの説明とそれに対するリアクション】
名作漫才① チュートリアル「バーベキュー」(0:50~5:15)



この漫才は、2005年のM-1チュートリアルが披露した漫才です。「バーベキュー」を題材にしたしゃべくり漫才ですが、ボケの徳井にキャラが仕込まれています。「バーベキューに対して興味・知識が過剰」というキャラクターを起点として、ネタのやり取りが展開されています。全体としては、バーベキューをしたい福田に対して、徳井がバーベキューの説明をしていく、という構図です。

①導入はどのようになっているか
ネタの導入として、福田が自然に出した「バーベキュー」というキーワードに対して、徳井の食い付きの過剰性がまず示されています。そのあと、全編において随所で繰り返される「お前みたいなやつがおるからな~」のあるあるネタが挟まれています。このやりとりは本題とは直接の関係はなく、いかにも昔ながらの漫才的な部分です。恐らく、実験的なキャラクターショーのネタの中に、ツカミかつ保険として含まれた部分だと思われます。

②ボケはどのようなものか
「たまねぎだらけの串」など、ベタなボケは前半に固められており、キャラクターを浸透させた後半において、「近代バーベキューの父トーマス・マッコイ」「ホームページ」など徳井のキャラクター設定に依存したボケが飛び出してくる配置です。徳井がボケとしてボケている部分はごく一部で、「お前みたいなやつが~」「たまねぎだらけの串」あたり以外は、キャラクターそのものに依存したボケが繰り広げられています。

③ツッコミはどのようなものか
ベタなボケに対してはきちんと訂正するタイプの正統派ツッコミをしており、キャラクター依存なボケに対してはツッコミというよりはリアクションを取るスタンスです。「なんで?」の多用によって、キャラクターの異常性が際立つようになっています。

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【”知識過小”なボケからの質問とそれに対する説明】
名作漫才② ダイアン「サンタクロース」



この漫才は、2008年のM-1グランプリでダイアンが披露した漫才です。ネタとしては、ボケの西澤が「サンタクロースを知らない」というキャラクターを事前に仕込んでおり、それを軸にやり取りが展開されています。全体としては、「サンタクロース」について西澤が疑問をもち、津田が説明をしていく、という構図です。

①導入はどのようになっているか
「クリスマス」の話題は津田が持ち出します。それに対して、「クリスマスの楽しみ方が分からない」と西澤。津田は、「クリスマスは楽しい、サンタクロースとか」と話題を提示。西澤がサンタクロースを知らない、ということを提示して、ネタに入って行きます。かなり丁寧な導入。津田がサンタクロースを連呼、西澤がやり返しでファナスティを連呼、というやり取りに入っていきます。

②ボケはどのようなものか
序盤はボケらしいボケはありません。設定の浸透が丁寧に行われています。一回目の爆発ポイント「ファナスティ」まではかなり長いですね。設定が浸透した後は、「サンタクロースを知らない人ならこういうところが疑問だろう」という趣旨でのボケが続きます。その意味では「あるあるネタ」の雰囲気も感じさせますね。西澤はボケとして発言しておらず、単に「サンタクロースを知らない人」です。「プレゼント」「そり」「トナカイ」「フィンランド」「靴下」などキーワードごとにやり取りが展開されていきます。このうち、「トナカイ」については知っている、という部分がアクセントになっていますね。

③ツッコミはどのようなものか
「サンタクロースを知らない人」に対して、的確にサンタクロースを説明する、ツッコミというよりは説明のスタンスです。ただその中で、テンションの高低を使い分けているのは、チュートリアルと対比できるポイントです。ボケがハイテンションのチュートリアル、ツッコミがハイテンションのダイアン、といったところでしょうか。ネタの後半では、「サンタクロースは本当は居ない」という逆転劇を演出しています。

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【理不尽な設定】
名作漫才③ 千鳥「クセが凄い」



この漫才は、THE MANZAI2013の最終決戦で千鳥が披露したネタです。千鳥にとってはかなり昔からやっているネタであり、ここ5年くらいの営業ネタでもあります。正直、THE MANZAI”2013”でやるネタではない、という声や、ネタそのものの分かりにくさからそれなりの批判があったネタですが、いかがでしょうか。ネタの主軸は、ボケの大悟の「クセ」にあります。これは事前の仕込のキャラクター設定といえるでしょう。ネタの中で、この「クセ」が大きくなったり、無くなったりしていくという奇抜な漫才です。

①導入はどのようになっているか
この漫才の話題である「歌」がさらっと出てきます。その後、このネタにおけるキャラの仕込み、「クセ」が提示されていきます。これ以降、このネタは「クセ」を軸に展開していきます。

②ボケはどのようなものか
ひたすら不条理な「クセ」を展開していくボケです。歌い方のクセから発展して、発音のクセ、「ヘネー」という意味不明なワードにまで話題が転がって行きます。最終的には、「ヘネーの出し方」というまるで理解不能な方向で盛り上がりを迎え、最終的にクセがいったん無くなり、オチでヘネが戻ってくる、という構成。

③ツッコミはどのようなものか
このネタにおけるノブのツッコミは、ある程度大悟の「クセ」に付き合っていく、という形を取っています。言葉の種類も多いですし、叩くのではなくアゴをこするツッコミの仕方など、なるべく世界観を拒絶しないような仕掛けがなされています。とても技巧的で、バリエーションに富んでいますね。

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【混合してしまうボケ】
笑撃戦隊「イチゴ狩りとオヤジ狩り」



今後のブレイク候補生、2007年結成の笑撃戦隊。コンビ名とは異なり、ボケの柴田は泣きながら喋る独特のスタイル。このネタの中では、柴田に「イチゴ狩りとオヤジ狩りを混合して取り乱している」という強烈なキャラ設定がなされています。ツッコミの野村は、号泣する柴田をなだめつつ、説明していきます。柴田の取り乱しと野村のワードセンスが軸のこのスタイル、新しいし物凄く可能性があるスタイルだと思うので、ぜひぜひ笑撃戦隊にはこれを極めてブレイクしてほしいです。

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【過剰・テンションの乱高下】
LLR「セサミン



こちらも今後のブレイク候補生、11年目のLLR。ネタの仕掛けはチュートリアルの延長といったところで、「セサミン」というキーワードを自分で出して自分で暴走していく仕掛けの漫才です。中盤以降、大喜利的な展開がハマりきらず広がり切らないのがネックではありますが、テンションの乱高下の演技や言葉選びには光るものがあります。「逆に質問だけど」のくだりは好きですねえ。一番おもしろいところがずっと続くような、LLRの面白さが濃縮された勝負ネタさえできれば、賞レースでも勝ち上がれる漫才ができると思います。


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この型の漫才は、まだまだ発展の余地があると思います。ボケが単発になりにくいぶん、伏線も引きやすく、爆発が起こりやすい。前例も決して多くはない。今後の展開に期待です。

 

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この記事を書いてかなり経ってから、僕もお笑いライブをはじめました。

この分類でいうキャラ設定型の漫才です。よかったらご覧ください。

 


カフカの漫才「縛りプレイ」

Taiki Obonai 2014-