僕が本当に面白いと思うこと

社会学専攻の京大院生の諸々

漫才を類型化する③「喧嘩型漫才」

一部に好評なので続けたい漫才類型化シリーズ。過去記事では以下、大喜利型漫才とプレゼン型漫才という二つの「型」を提示しました。

今回は「喧嘩型漫才」です。これまでの記事でも、漫才を「語りのあり方」によってゆるやかに類型化してきたのですが、「大喜利」にせよ、「プレゼン」にせよ、本来の漫才の醍醐味であるような「掛け合い」がメインに立つ漫才ではないですよね。今回は、ヒートアップするやり取りが醍醐味の「喧嘩型漫才」について見ていきます。キーとなるポイントは、「対立する二者の立場」「笑いどころの提示の仕方」「ボケとツッコミのあり方」です。

「対立する二者の立場」については、二者のキャラクターをどう設定していて、それが漫才内で繰り広げられるやり取りをどれくらい規定しているか、逆にどれくらい自由度や発展があるのか、を考えます。喧嘩漫才として面白いものを作るためには、対立項をきちんと作って喧嘩の正当性を担保すること、キャラクターに面白さや、面白くなるポテンシャルを与えることが必要です。

「笑いどころの提示の仕方」については、喧嘩漫才では演者は向き合ってお互いに向けて話すことになる以上、客を巻き込むことの難しさがあることを考慮し、どうやって客に見せているのか、を考えます。特に序盤でどう笑いどころを提示し、また中盤以降どうやって展開しているかについて考えます。

「ボケとツッコミのあり方」については、喧嘩の中でボケとツッコミの役割、逸脱と修正の役割がどのように担われているのか、を考えます。

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【神経質 VS おおらか の喧嘩漫才】
名作漫才① ブラックマヨネーズ「ボーリング」


M-1グランプ2005で優勝したブラックマヨネーズの決勝ネタです。神経質の吉田と、楽天家の小杉による喧嘩漫才という形を取っています。この漫才の一番のポイントは、どちらもボケようとはしていない、ツッコもうともしてない、ということです。お互いに、日常会話のように、ただただ喧嘩しているだけなのです。それが物凄く面白く、誰にでも評価される漫才になっているということが凄まじいです。

「対立する二者の立場」
・ボーリングをやってみればいいじゃないか、と提案する楽天家の小杉
・小杉の提案に対して、神経質に迷う吉田

「笑いどころの提示の仕方」
開始一分で「小杉の提案」⇒「神経質な吉田」という会話のルールを提示しています。会話一分あたりから、このネタの中で重要な笑いどころである「比喩」が頻出。「村上ファンド」「ピタT」「難波まで転がって行く」etc...この辺りには吉田のワードセンスが反映されています。まずキャラクターで引き込み、ワードセンスで爆発を狙うという段取りは、チュートリアルや千鳥やウーマンラッシュアワーにも共通する典型的な手法ですが、その仕掛け方が上手です。島田紳助が、「四分の使い方が抜群」と言うのも頷けます。

「ボケとツッコミのあり方」
序盤~中盤にかけては吉田ボケ、小杉ツッコミという笑いの取り方をしているが、終盤(スクーター以降)には反転して、吉田のボケに乗っかった小杉の提案がボケ、吉田が正論によるツッコミ、という笑いの取り方になっている。この反転のスムーズさ!この漫才に対して、大竹まことが「オーソドックス」というコメントをしているのですが、オーソドックスでもなんでもない、ボケとツッコミが流動的な、いかにも最近の新しい漫才です。

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【男性的 VS 女性的 の喧嘩漫才】
名作漫才② ハマカーン「相方への不満」

THE MANZAI2012を制したハマカーンもまた、喧嘩漫才で成功した漫才師の好例です。この漫才は、喧嘩として最も適した設定、「相方の不満」を扱っています。彼らの漫才は、喧嘩の質が非常に高くて今日的。いわゆるオネエキャラが流行ったこともあって、女性的な男性が広くキャラとして認められていることもあり、男子の代表たる浜谷VS女子の代表たる神田という喧嘩のスタイルを漫才に落とし込めているのです。どんな話題であれ、男VS女の基盤があるので「あるある的なフレーズ」も放り込みやすく、ネタを広げやすいシステムとなっています。キレやすくて無神経なところのあるオッサン浜谷の大味なセリフ回しにも非常に味があります。

「対立する二者の立場」
・男、オッサン、キレキャラとしての浜谷
・女、オネエとしての神田

「笑いどころの提示の仕方」
「お前女子じゃねえだろ」が序盤で繰り返されるキラーフレーズとなっていて、この漫才における人間関係を意識付けしています。中盤以降のキラーフレーズは「私は一体何を…」ですね。怒りで我を忘れ度が過ぎた浜谷が暴走⇒自戒というパターンが、アクセントかつ爆発ポイントになっています。この二つのキラーフレーズの繰り返しを軸にして、随所に関係性を補強するようなやり取りが含まれています。

「ボケとツッコミのあり方」
女性にありがちとされているような論理に飛躍のある言い回しを、男である神田がするというのは、一つのボケとして完成しています。それに対して、男性にありがちとされているような、理屈っぽくて筋は通っているが冷たいような言い回しで、浜谷がツッコんでいきます。基本的には浜谷がツッコミだが、途中で暴走⇒ボケ的になるというのは、とても日常会話に近くて興味深いです。日常会話では、誰かがボケ・ツッコミという役割が決まっているわけではありません。ボケとツッコミを繰り返す段取り的な漫才は、どうしても演芸的になってしまいがちです。会話のリアリティを増す意味合いで、ボケとツッコミの流動化はとても有効な戦略です。

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【システマチックな喧嘩漫才】 
名作漫才③ ジャルジャル「言葉」


ABCお笑いグランプリを制覇した際の、ジャルジャルの漫才ですね。このネタは喧嘩型であると同時に、「システム型」と言われるタイプのネタです。ネタの中で笑うためのルールを提示して、そのルールで遊ぶというスタイルのネタです。言葉の使い方、言い間違え方、独特の言い方などをお互いに指摘し合うというスタイルでWボケ・Wツッコミ的に展開される中で、後半には伏線回収パートも入っていて、縦横無尽にボケが散りばめられた、いわゆる「勝てる漫才」ですね。このシステムの開発は画期的だと思います。この形式の延長の漫才で、いつかジャルジャルが賞レースを再び取るのでは、と思わせるものがありますね。

「対立する二者の立場」
お互いに、相手のミスを指摘する姿勢になっています。自分の言葉遣いに間違いがあるということは自覚してない、という点がこの漫才の形を整えていますね。

「笑いどころの提示の仕方」
序盤に分かりやすい言い間違えボケ⇒指摘をいくつか入れ、このネタのシステムとルールを観客に分からせていますね。それとなく後半の伏線となるボケが入っていて、観客がルールに飽きないような仕掛けがなされていますね。

「ボケとツッコミのあり方」
この漫才は、両者ともに自分のことをツッコミだと思っているけれど、両者ともに間違いを含んでいるという点がユニークです。「両者ツッコミだと思っている漫才」の例としてはオードリーがありますが、オードリーの場合、若林はツッコミに徹していますよね。しかし、ジャルジャルのこの漫才は、後藤・福徳ともにボケかつツッコミという形になっています。これは明らかに「Wボケ」笑い飯登場以降の手法です。

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 ここまで見てきたような喧嘩漫才は、テンションの高まりを表現しやすく、またフォーマットを固めればネタを量産できるという点で、凄く発展性のあるものだと思うんです。ただ、実際にやってる人が少ない。今後、何らかの形でこうした喧嘩型漫才のニュースタイルが出てくるのでは、と思っています。

 以下、喧嘩タイプの漫才の秀作を紹介していきます。

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【喧嘩漫才×地域性】
U字工事 「栃木と茨城」


「対立する二者の立場」
栃木原理主義者益子 vs 穏健派福田 みたいな感じでしょうか。喧嘩というよりは暴走vs説得・なだめと言えるかもしれませんね。

「笑いどころの提示の仕方」
栃木ナショナリズムの強さ、その非常識さが、かなり分かりやすく、また巧みなワードセンスによって提示されています。この漫才は、当然関東地方在住の人が見た方が面白いのですが、彼らの中では、栃木・茨城といったものは漫才の中では記号として用いられているに過ぎないため、他地域の人でも伝わるようになっています。

「ボケとツッコミのあり方」
かなりオーソドックスなボケとツッコミの展開です。益子の「ごめんねごめんね」をいかに面白い文脈で言うか、その文脈のためのネタといえるかもしれません。

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【喧嘩漫才×屁理屈】
囲碁将棋 「サボった理由」


「対立する二者の立場」
屁理屈・超理論を展開する文田と、それに翻弄される根建の対立。途中から関係性に変化が出て、文田が根建にカマをかけるという展開に。

「笑いどころの提示の仕方」
文田のサイコな超理論のシステムをまず提示し、そこから話題を広げていく、という方法で笑いどころを示しています。このネタの核である「サングラスをかけている人の正体」に至るまでがまず速いですね。さらに、その後その根拠として文田が提示するロジックにもパターンができていて、それが漫才の中では天丼(カブセ)として機能しています。また、随所に漫才的なボケやツッコミも挟み込まれていますね。FAXとか。

「ボケとツッコミのあり方」
分かりやすく文田がボケ、根建がツッコミであるように見えますが、実は文田はボケている気はないはずです。このネタの文脈では、文田は屁理屈を押し通して根建を言いくるめようとしている詭弁使い。そして囲碁将棋のネタの特徴としては、その詭弁のクオリティ、論理的な一貫性が非常に高いということがあります。THE MANZAI2014でも優勝候補の一角ですねえ。

 

 

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この記事のかなり後にはなりますが、僕もお笑いライブをはじめました。

よかったら僕の漫才も見てくださいな。特に喧嘩漫才ではありませんが。


カフカの時事漫才(2017春)

Taiki Obonai 2014-